宇宙で最も重いもの


タンパク質量に関するデータの統一

科学的な研究とは、新たな疑問や思考について探求していく事だと言えます。研究は、全く新しい革新的な研究と、二次的に既存のデータを比較分析する研究の2つに分類する事が出来ますが、後者すなわち二次的にデータを比較分析する研究については、異なる研究グループのデータを使用する場合、それぞれのグループが異なる測定方法や単位を採用している点が問題となり、容易に妥当な結論を導き出すことは出来ません。

2017年、Dr. Hoらは、複数の研究結果を統一することでこの問題を解決しようとしました。Dr. Hoらは、生物医学研究で広く使われている微生物の一つである酵母のタンパク質量を、通常の状態またはストレス状態において定量化した19の研究を見つけ出し、それらの全く異なる結果データを統計分析とデータ処理によって単一の測定単位(細胞あたりの分子量)に変換しました。彼らの目的は、自分達のみならず他の研究グループも将来の比較分析研究を容易にすることにありました。

Dr. Hoらの研究グループは、酵母のプロテオームの97%にあたる5702個のタンパク質を調べ、酵母のタンパク質数はその機能に応じて異なり、最も多量に存在するタンパク質が細胞の増殖と発達の役割を担っているということを発見しました。また、それぞれのタンパク質の分子数は、細胞あたり5個という少ないものから130万という多量なものまで幅がある一方、3分の2のタンパク質の分子数は1000〜5000の範囲であることから、「非常に多数または非常に少数の分子数のタンパク質が複製されることはまれである」と考えられると述べています。

この研究グループは、精度が異なる質量分析法と蛍光標識を用いて得られた結果の比較も行い、大部分(95%)のタンパク質は蛍光標識の存在に影響されないことも発見しました。この発見に、一般的な方法を用いてタンパク質の分布や水準を調査している多くの研究者は間違いなく喜ぶことでしょう。

Dr. Hoらは、通常の状態かストレス状態であるかによって、タンパク質の数が変化(増加もしくは減少)することを確かめ、統一されたデータはプロテオームの動的調節のさらなる分析に役立つであろうと結論づけました。

上記Dr. Hoの研究は、「革新的」な研究がいかにして発表済みの先行研究結果の比較から生まれるかがわかる一例です。独自の革新的な研究は常に必要ですが、既存のデータを結びつける研究もまた科学研究を発展させる上で重要な役割を果たすのです。
 


論文取り下げまでの長い道のり

カテゴリー: Publishing

とある科学雑誌に論文を投稿、後に取り下げをしようとしたある著者の体験をご紹介したいと思います。そのジャーナル、ここではJOXXと呼ぶことにしますが、それは科学誌出版のトップ2のうちの1つの出版社から出版されているジャーナルでした。

2018年7月、著者(MI)はDMCが英文校正をさせて頂いた論文をJOXXに投稿しました。
2019年3月、投稿から8ヶ月も経って、ようやく当該論文のオンラインステータスが
「レビュー中」に更新されました。MIは早急にレビューを完了する様に依頼の連絡を入れましたが、ジャーナル側からの応答はありませんでした。7月になっても進展がなかった為、MIは論文を取り下げ、他の出版社の別雑誌に提出する事を決意し、JOXXに連絡をする為の手助けをDMCに求めました。

が、事は上手く運びませんでした。以下が時系列の詳細です。


2019年7月29日
MIが論文取り下げの為にJOXXに送ったメール(DMCにて文面代理作成)

Dear editorial staff of JOXX,

I am writing to request that the status of the review of my paper (manuscript number JOXX-D-99-9999) be checked and if possible, for the review process to be hurried along.

It has been close to 5 months since the paper was first placed “Under Review” and more than 13 months since the initial submission — my coauthors and I think that this too long a time to wait for a response from the journal.

I would appreciate it if you could respond to my email and inform me of whether it is possible to speed up the review of this paper. If it is not, my coauthors and I would like to consider withdrawing our paper.

Sincerely,
MI

 

2019年7月31日
JOXXからの回答

Dear Dr MI,

The editor has responded that most of the invited reviewers are declined to review the manuscript JOXX-D-99-9999 and he is in need of two additional names of potential reviewers to continue the process.

The editor has requested you to suggest any two reviewers with their e-mail address so the he could expedite the processing of your paper.

Thank you very much.

Best regards,
SR


2019年8月5日
MIは、投稿から13ヶ月、レビュー開始から5ヶ月も経った後に来た上記返答に到底満足できず、論文を取り下げ、他の雑誌に改めて投稿すると決めました。DMCは再度JOXX宛に送るメール文面を以下の様に代理作成しました。

Dear Ms SR,

I was concerned to read your message concerning my submission, JOXX-D-99-9999, of July 31.

Please be reminded that it has been around 5 months since the paper was first placed “Under Review” and more than 13 months since the initial submission.

Your journal’s delay in responding to our submission is unacceptable. On behalf of my coauthors, I therefore withdraw this paper from review for publication in JOXX, and cancel our submission.

Please let me know by 18:00 JST August 7 if there is any impediment to our submission of this paper to another journal. If I do not hear from you by that time, I will consider that there is no impediment, and that we are free to submit the paper elsewhere.

Sincerely,
MI


このメールに対し、JOXXは同日中に以下の返信をしてきましたが、その内容はMIの論文取り下げの要求を完全に無視したものでした。

Dear Dr MI,

The paper is currently with the editor for initial evaluation.

The editor will render a decision directly or will initiate the review process.

However, I have now contacted the editor to expedite the process.

Thank you very much.

Best regards,
SR


2019年8月7日
JOXX側から再び連絡が来ましたが、またも論文取り下げ要求については何も触れられていませんでした。

Dear Dr MI,

The editor has responded that the invited reviewers have declined to review the manuscript JOXX-D-99-9999 and he is in need of two additional names of potential reviewers to continue the process.

The editor has requested you to suggest any two reviewers with their e-mail address so the he could expedite the processing of your paper.

Thank you very much.

Best regards,
SR


2019年8月8日
MIはJOXX側の対応が極めて不適当であると判断。JOXXは論文取り下げに関して如何なる制限も掲げていなかった事から、DMCは以下のメッセージをJOXXに送るよう助言しました。
これは、論文の取り下げ要求をすると同時に、後日他の雑誌に投稿した際に二重投稿だと指摘されない様にする為のものです。JOXXの編集者、プロダクションマネージャー、倫理部門の代表者にもメッセージを送信しました。

Dear Ms R,

As I noted in my withdrawal email of August 5, I have withdrawn our manuscript JOXX-D-99-9999 from consideration for publication in JOXX.

As you did not declare any impediment to withdrawal by 18:00 JST August 7, as I had requested if such existed, I consider that there is no impediment to withdrawal, and that we are accordingly free to submit the paper elsewhere.

Given the inappropriateness of your responses to my withdrawal notice, I have cc’ed this message to Dr A (JOXX editor); Ms B (JOXX production editor); and Ms C (Research Integrity Manager, [Publishing Company] Research Integrity Group), in order to avoid any future confusion.

Sincerely,
MI

同日、ようやくJOXXはMIの論文取り下げ要求について反応を示しました。

Dear Dr MI,

I have already escalated your concern to the Editor[....]

However, I have now contacted the Editor for your withdrawal request and will get back to you shortly.

Thank you very much.

Best regards,
SR

とは言え、この期に及んでJOXXは未だ取り下げ要求を承諾してはいませんでした。投稿から13ヶ月以上も続く、長期間に渡るこの「噛み合わないやりとり」は、MIに多大なストレスを与えました。

2019年8月9日
MIは、論文の取り下げは完了しており、以降、当該論文を別雑誌に投稿してもなんら問題はない。と、JOXXに(JOXX側の関係者全員にもcc)通告しました。

Dear Ms SR,

Your message of August 8 regarding JOXX-D-99-9999 again ignores my message of the 5th, and your failure to raise impediments to withdrawal by August 7.

As comprehension seems lacking, I will repeat: the paper is withdrawn, and is free for submission elsewhere.

This matter is now closed.

Sincerely,
MI

そしてついに、担当の編集者が論文の取り下げを承認しました。

Dear Professor,

Your message was received and the paper will be withdrawn.

Cordially,
AB

論文査読のブラックボックスを経験した事がある研究者なら、誰でもこのストレス満載の経験に同情するのではないでしょうか。昨今の多くのジャーナルがそうである様に、JOXXのエディター部門(アメリカ)はマネージメント部門(インド)と物理的に離れており、それが今回の遅延を引き起こしたように思われます。

ご紹介した事例から得られる教訓は、論文の著者はジャーナルの緩慢な対応を必ずしも黙って待つべきではないという事でしょう。言い換えれば、自分の論文が適切に正当な期限内に取り扱われる様に、著者は積極的に関与すべきだ。とも言えるでしょう。MIは13ヶ月も辛抱強く待ち、その後勇気を持って行動を起こしましたが、もしアクションを起こしていなければ、MIは今でも待たされ続けていたかも知れません。 


お盆休みにつきまして

カテゴリー: DMC News

恐れ入りますが弊社は、
8月13日 (木) から 8月 16日 (日) まで
4日間、休業とさせて頂きます。
8月17日 (月) より通常営業致します。

休業期間中お急ぎの英文校正のご依頼がございます場合は、
弊社インフォメーション .(JavaScript must be enabled to view this email address) 宛に、
件名の最初に ‘URGENT’ を付け加えた形で
メールを頂ければと存じます。

尚、誠に恐れ入りますが、上記休業期間中は、
インフォメーション宛にご連絡を頂きましても
翻訳(英訳/和訳)並びに
ご請求書類/領収書等の発行を承る事は出来ません。
ご了承下さいます様よろしくお願い致します。


自己盗用判定、類似性指数算出の問題点

投稿先のJournalに、論文内の文章に盗用もしくは自己盗用の疑いがあると判断された、と言う理由で文章の表現書き換えのご依頼を当社に頂くケースが増えています。しかし、単に文章に類似性があるということだけを根拠に、盗用であると言うには大きな問題があります。

盗用チェックに最も多く使われているツールの1つがiThenticateです。論文著者の皆様にはもうおなじみかと思います。
iThenticateは、既存の論文の文章と「類似性あり」と判定された語句にタグ付けをし、その類似語句が当該論文にどのぐらい含まれるかを分析して類似指数(スコア)を計算します。スコアが20%未満であれば許容範囲と見なされます。

最近 iThenticateのスコアが37%の論文の表現書き換え依頼を頂きました。 内容を見てみると、iThenticateはアブストラクトだけでも以下の語句について他の論文のものと類似であると、タグ付けしていました。

     cohort data
     all-cause and cause-specific mortality
     person-years of follow-up
     in the analysis
     95% CI: 1
     the
     a

何と、「the」や「a」でさえも類似のタグ付けをされていたのです。
タグ付けされたアイテムのうち1つを除いて、これらの汎用語のすべてがアブストラクトの類似指数の数値に影響を与えていました。
25個のタグ付きアイテムのうちの1つだけは、以前の論文のテキストからの「盗用」の可能性があると考えられました。しかし、実際は25個すべてのアイテムがiThenticateによる類似指数の算出に使われていたのです。

更におかしなことに、iThenticateは、タグ付けアイテムがたった10語未満の12の論文を類似論文としてリストアップし、類似性指標の算出に使っていたのです。

他にも問題はあります。iThenticateは狭い科学分野で盛んに論文を発表している研究者達を、特に厳しい状況に追いこんでいます。iThenticateは、彼らが論文に用いる用語や表現を、以前の論文に使われたものと類似しているとして常にタグ付けするのです。しかし、同じ分野の論文で類似した用語、表現を用いることは避けられません。実際、「類似性」を避けるために同じ文章を複数の論文の中で、複数の違った方法で表現しなければならならないことはよくあります。
以前の論文で使用されていたという理由だけで、正しい表現をぎこちない不正確な表現に書き換えざるを得ないのです。
盗用を最小限に抑える為なら仕方がない。と、果たして言えるのでしょうか。

盗用防止は達成すべき目標ではありますが、文章の類似性により安易に盗用と判定してしまうのは、本来の目標達成には非効率で不適切なやり方ではないでしょうか。


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