対象別にみる冠詞の使い方
名詞には、固有名詞、可算名詞、不可算名詞、両面名詞(可算・不可算両方になりうる名詞)の4種類があります。それぞれの名詞は異なる方法で確定されます。
固有名詞
場所、人物、国などを表します(例:パリ、ジョージ・ワシントン、ノルウェー)。
論理的に、固有名詞の指示対象はただ1つしかないものなので、確定する必要がありません。 よって、固有名詞に冠詞は要りません。
可算名詞
数えられるものを表します。言い換えれば、一般的に明確な形をもっているものや、明確な始まり・中間・終わりがある事象などです。
可算名詞には、物理的な物(例:木、飛行機)と、観念的な物(例:過程、意見)があります。
可算名詞となる可能性がある「対象」は複数あるため、その中のどれを指すのかを確定する必要があり、ゆえに冠詞も必要です。
不可算名詞
数えられないもの、指し示すことができないものを表します。
言い換えれば、明確な形をもたないもの(例:砂)、抽象的な概念(例:幸せ、家具)、連続的な過程(例:呼吸、落下、汚染)、学問の分野(例:経済学)などを表します。これらは、何か特定の物を指すというよりも、物の種類や分類を表しています。
例)Construction is an important industry.→「建設業は重要な産業である」
この場合の「建設業」は、あらゆる種類の建設業、もしくは建設業という概念を指しています。
不可算名詞は特定の物を対象としないので、確定する必要はなく、冠詞も要りません。
両面名詞
両面名詞は、その文の中で何を「対象」とするかによって、不可算名詞にも可算名詞にもなりえます。
例)Blood was collected from the femoral artery. Plasma was separated from the blood by centrifugation.The plasma was stored at -20℃ until assay. →「血液は大腿骨の動脈から採取された。その血液から、遠心分離によって血漿が分離された。その血漿は分析検査まで‐20℃で保管された」
最初の「blood:血液」という名詞は体内の血液を指し、それは明確な形をもたないので数えられないものと考えられ、確定する必要はありません。2番目の「blood:血液」は、ここで採取された血液を指しています。採取されたことにより、いまや数えられる状態になったと同時に、ほかの血液一般とは区別できる特性も有しています(言い換えれば「ここで採取された血液」に限定される)。ゆえに確定する必要があるので、“the”が必要です。 「plasma:血漿」に関しても同じ理由で、最初の「血漿」には定冠詞がなく、2番目にはついています。これは2番目のほうが「その遠心分離機によって分離された血漿」だけを指すからです。
それでは、名詞が指し示す「対象」を確定するために、どのように冠詞を使うのか見てみましょう。
総称的な対象に冠詞を使う
総称的な「対象」が指すのは特定の物ではなく、ある物一般だったり、物の種類を表します。
総称的な「対象」には3種類あります。 それぞれの違いはわずかで、種類によって“the”や“a”を使ったり、まったく冠詞を使わなかったりします。
不特定な物で表す総称的対象:不定冠詞“a”を使う
その総称的対象(種類)の中の不特定な物1つに、総称的対象全体を代表させる形で表現されます。
例)An adult can lose half a liter of blood without ill effect. →「大人は半リットルの血液を失っても悪影響を受けない」
言い換えれば、「大人というものは、半リットルの 血液を失っても悪影響を受けない」という意味です。この種の「対象」には“a”を使います。
複数の物で表す総称的な対象:定冠詞なしで複数形を使う
その総称的対象(種類)に属する不特定の物すべて(つまり複数)に、総称的対象全体を代表させる形で表現されます。
例)Adults can lose half a liter of blood without ill effect. →「大人たちは、半リットルの血液を失っても悪影響を受けない」
これも言い換えれば、「大人というものは、半リットルの 血液を失っても悪影響を受けない」という意味です。総称的な「対象」を複数形で表した場合、冠詞は必要ありません。
他の総称との区別で表す総称的な対象:定冠詞“the”をつける
総称的な「対象」(種類)を、関連する異なる総称との対比を暗示して、表現します。
例)The adult can lose half a liter of blood without ill effect. →「大人は、半リットルの血液を失っても悪影響を受けない」
この文は、大人「だったら」こんなにたくさんの血を失っても大丈夫だが、子供ならば悪影響があるという対比を暗示しています。
不確定な対象に冠詞を使う
不確定な「対象」とは、特定の物ではあるが、文脈の中でその物ならではの固有性について、次のいずれかである場合です。
- 初出であるために特定できない
- 特定することは重要でない
こうした「対象」は不確定なので、名詞には“a”が必要です。2つのタイプがあります。
初出の不確定な対象
ある名詞が文中に初めて出てきた場合の「対象」です。
例)The absorption of iron is an active process. The process occurs in the lower part of the small intestine. →「鉄分の吸収は能動的な過程です。その作用は小腸の下方部分で生じます」
上の例文では、1文目に“process:過程”と言う名詞が初めて出てきます。読者は、その時点ではまだその名詞の「対象」を特定できないので、名詞に“a”が要ります。しかし2文目では、“process”がどういう“process”のことを指しているのかは、1文目にすでに出てきているので、2文目のprocess”は確定されたと考えられます。
2文目のprocess”に関しては、その前の叙述が「対象」を確定しているので、“the”が要ります(次項をご覧ください)。
文脈上、不確定な対象
その「対象」ならではの固有性が文脈上重要でない場合、確定する必要はありません。
例)It was too far to walk, so we took a taxi. →「歩くには遠過ぎたので、私たちはタクシーに乗った」
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