論文のインフレ
2008年12月08日、執筆者:Guy Harris
DMCでは先日、腫瘍学の主要雑誌に投稿された論文について相談を受けました。その論文は正式論文として書かれたものですが、扱っている腫瘍の症例数が多くありませんでした。査読者からは次のコメントが届いていました。
"The present report suffers, however, from some serious problems. There is no remedy, at the present time, to the limited number of ... cancer cases but, at least, the authors should avoid too many sub-group analyses”
著者は、サブグループ分析のいくつかを削除し、図をまとめ、考察を短くして短報として再提出するよう要求されたのです。
このケースは「DMCが校正依頼を受ける論文の多くは、短報にしたほうがより良いのではないか」と私が常々感じていることを裏付けるものでした。これは腫瘍学に限ってのことではなく、すべての分野の論文について言えることです。データの量からすると冗長過ぎる論文もあります。これは経済的なインフレ同様、'paper inflation’=論文のインフレと言えると思います。ページ数が多い論文は、読む側の時間と精神的労力(精神的な¥とも表現できます)を浪費するばかりで、十分な「対価」を与えません。このインフレは、論文の考察の部分で顕著です。
一般的に正式論文(フルレポート)は、決まった様式で書かれます。最近は多くの雑誌で短報を掲載しないため、論文著者は必然的に長い論文を書くに至ります。ジャーナルの出版社はアクセプトする論文の様式を見直す時期に来ているのではないでしょうか。もちろん、論文の様式はそのデータに合う形にするべきであって、「まず様式ありき」のような本末転倒ではいけませんが。
上述の論文については後日、短報に書き直された原稿と査読者への回答文をDMCがチェックすることになるでしょう。その論文は、短報として間違いなく主要雑誌にアクセプトされると思います。
Article written by Guy Harris
この記事を知人に送る





カテゴリー
ブログの
アーカイブ
2022年
4月
- GWにつきまして
2021年
12月
- 年末年始の営業予定につきまして
8月
- タンパク質構造を予測するAI
- お盆休みにつきまして
1月
- ジャーナルと編集 Part 1. ジャーナルの要件を理解していなかったジャーナル編集者
2020年
12月
- 年末年始の営業予定につきまして
- 語数制限の極めて当然なトレンドの始まり?
11月
- テキストリサイクリングについて - 日本の主要ジャーナルの編集者の見解
10月
- 宇宙で最も重いもの
- タンパク質量に関するデータの統一
8月
- 論文取り下げまでの長い道のり
- お盆休みにつきまして
7月
- 自己盗用判定、類似性指数算出の問題点
2019年
4月
- GWにつきまして
2018年
11月
- 網膜 心臓を覗ける窓
10月
- 光のスピード - さあ体感してみよう
2017年
12月
- 3D Brain
2015年
8月
- ハリウッドは英語学習法を提供してくれる
3月
- "Could"の正しい使い方
- Nature の論文は無料・・・本当に?
2014年
12月
- 自由に読める論文(オープンアクセス)と出版社の搾取
10月
- 森和俊教授ショウ賞受賞
- 森和俊教授ラスカー賞受賞
4月
- PLOS ONEのデータポリシー
3月
- 「recent」の本当の意味
1月
- ノセボ現象–インフォームドコンセントとの板挟み
2013年
12月
- Google search operatorとPubMedで英文をより良いものに
9月
- 見識の記述について
2012年
7月
- 統計学的有意性をレポートするべきか?混乱する現状
2011年
10月
- 血液検査の驚くべきグラフィックビュー
9月
- maximum/minimumとmaximal/minimalの違いとは?
5月
- “number of”を使うべき?それとも“amount of”を使うべき?
3月
- アウトライン機能を活用した論文執筆
1月
- ‘native-rashii’ライティング1 : 文末に要点を置く
2010年
9月
- 重要と言う言葉の重要性
8月
- 先入観をもたせやすい単語は避ける
6月
- 論文発表のためのヒント
5月
- 学術誌における写真の不正加工
3月
- 現行の査読プロセスで、科学分野における新知見の公表方式は正当といえるか?
1月
- パソコンのおかげで、論文を読む手間が省ける?
2009年
12月
- 略記でのピリオドの使い方
10月
- 原稿VS.査読者
8月
- 正しい “etc.” の使い方
7月
- シリアルコンマの使い方
6月
- 形容詞が連続する場合の順序
5月
- ダウンタイムのお詫び
1月
- 新薬開発の最前線
2008年
12月
- 論文のインフレ
9月
- 否定的な内容を表現する文法
8月
- 「Electronic」 と 「Electric」の違い
- another と the other の使い分け
7月
- オープンアクセスについて:1
- almost all、most、most ofの違い
6月
- 第6回 International Congress on Peer Review and Biomedical Publication
4月
- リジェクトのレター
- 永久に有効なリンク
3月
- 「Google査読」の時代は来るか?
2月
- 「査読ブログ」の時代は来るか?
2007年
11月
- 生命の写真
- 誤りがちな「more than」の使い方
9月
- 略語に付ける冠詞
- アドバイス:投稿はポジティブな姿勢で
8月
- オープンアクセスについて:2
7月
- 科学出版で起きた問題
- 論文における過去形の使用法
- 「contain」と「include」の使い分け
- 簡潔に書く方法
6月
- 査読の質の課題
- 「can」と「may」の使い分け
- コロンとセミコロン
5月
- 論文掲載における性差:女性の発言権は男性と対等か?
- アクセス無料化によるバリアの消失
- 強力な論文に仕上げるために