ノセボ現象–インフォームドコンセントとの板挟み
2014年1月29日、執筆者:Guy Harrisカテゴリー: General Science Items
プラセボ現象のことは良く知られています。ではその反対の効果である「ノセボ現象」について聞いたことがありますか?
Journal of the German Medical Associationに問題提起の論文が掲載されました。その内容は、医師や看護士が患者に実施する医療的ケアの結果について十分な情報を伝えようとすると、それが薬の副作用や、医療処置による不快症状を悪化させるかも知れないというものです。この背景には「ノセボ効果」という現象があります。次の文はその論文からの引用です。
ノセボ現象は臨床診療で普通に見られるもので、最近は基礎研究者や臨床医師、倫理学者の間でよく研究・議論されるトピックとなっている。
2013年12月5日にPubMed検索した結果、「ノセボ」についての論文は213編、そのうちの20%が実証的研究、それ以外は編集者への手紙 (Letter to the editor)、解説、論説、総説でした。一方、「プラセボ」についての論文は165,000編にのぼりました。
ノセボ現象とはどのぐらい強いものなのでしょうか。三環抗うつ薬(TCAs; 21 論文)および選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRIs; 122 論文)の無作為対照試験の総説によると、有害事象の発生率はTCA試験(投与群とそのプラセボ群)の方が SSRI試験(投与群とそのプラセボ群)より有意に多く、 TCAのプラセボを投与された患者では、SSRIプラセボを投与された患者に比べ、口渇(19.2% 対 6.4%)、視覚異常(6.9% 対 1.2%)、疲労(17.3% 対 5.5%)、便秘(10.7% 対 4.2%)を訴える率が有意に多かったとの事です。
著者はさらに次のように述べています:
医師は提案した治療法について、患者が十分な情報に基づいて受け入れを決断できるように、それを実施した場合に起こりうる副作用について知らせざるを得ません。
一方、医師は状況説明に伴って生ずるリスクを含め、医療介入が患者に及ぼすリスクを最小に抑えなければなりません。患者への説明がノセボ反応を引き起こすかも知れないのに...
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