Nature の論文は無料・・・本当に?
2015年3月02日、執筆者:Guy Harrisカテゴリー: Publishing
最近のNature news に
「Natureの全ての論文は無料で読む事が出来る様になる」と言う記事が出ました。(http://www.nature.com/news/nature-makes-all-articles-free-to-view-1.16460).
これは一見とても画期的な出来事の様に思われますが、よくよく記事を読んでみると、重要な制限事項が(小さな文字で)書かれています。
“Publisher permits subscribers and media to share read-only versions of its papers.” (「読者とメディアに対し、読み取り専用に限り論文の共有を許可する。」)
わかりやすく言うと、1869年から続く歴史あるNatureの論文をオンライン上で読む事は許可するが、印刷やダウンロードは許可しないという事です。さらに「オンライン上で読む」と言う点についても制限が付きます。それらの論文を読む際は、Nature 独自のスクリーンビューを使わなければならないのです。この独自のスクリーンビューは、書き込みをする事は出来ますが、コピーもダウンロードも印刷も出来ない様になっています。これでは 「全ての論文が無料」とは言えないのではないでしょうか。
他にも「読者」についても制限があります。研究機関に所属する読者は1869年(Nature 設立)まで遡って論文を見る事が出来ますが、その一方で機関に属さない個人の読者は、1997年以降の論文しか見る事が出来ません。技術的には1869年の設立以降の全ての論文にオンラインでアクセス出来るにも関わらず、アクセスを制限しているのです。すなわち大半の読者は、1997年以前に出版された膨大な論文を無料で読む事は出来ないのです。そして、何故1997年を区切りとしているのか明確な説明もありません。
しかしながら、読者(研究機関に所属する、しないに関わらず)が、入手可能なNature 論文に一旦リンクをすれば、誰でもそのリンクを共有する事は可能です。そして、そのリンクから、読み取り専用の論文PDFにたどり着くことが出来ます。様々なメディアやブログ等を通じて論文のPDFを共有する事も出来るでしょう。その様な共有されたリンクを見つけたり、誰かに教えてもらったりすれば、幸いにもNature 論文を無料で読む事が出来ます。さらに、オフラインで論文を読みたい時には、ReadCubeの様なソフトウェアを使ってデスクトップ上に保存すれば良いのです。(iTunes同様に)
また、Nature ならびに関係雑誌は、出版から6ヶ月以上経った後に限り、投稿者が自分の論文を個人的にオンライン上で保存する事を許可しています。さらに、いくつかのNature のグループ雑誌で出版された論文は、 ‘gold open-access’ と言うシステムを使えば出版とほぼ同時に無料で読む事が出来る様になります。‘gold open-access’とは、出版社が読者に課金するのではなく、論文の著者に課金をするシステムです。
いずれにせよ、様々な制約が存在する中で「全ての論文が無料」は、言い過ぎだと思われます。とは言え、この様に収益を損なわない様にしながらも、基礎的研究の発展に寄与しようとするNature Publishing Groupの試みは賞賛に値します。
Natureの この新しい試みに実際に接した方がどう思われたのか、非常に気になる所です!
この記事を知人に送る





カテゴリー
ブログの
アーカイブ
2021年
1月
- ジャーナルと編集 Part 1. ジャーナルの要件を理解していなかったジャーナル編集者
2020年
12月
- 年末年始の営業予定につきまして
- 語数制限の極めて当然なトレンドの始まり?
11月
- テキストリサイクリングについて - 日本の主要ジャーナルの編集者の見解
10月
- 宇宙で最も重いもの
- タンパク質量に関するデータの統一
8月
- 論文取り下げまでの長い道のり
- お盆休みにつきまして
7月
- 自己盗用判定、類似性指数算出の問題点
2019年
4月
- GWにつきまして
2018年
11月
- 網膜 心臓を覗ける窓
10月
- 光のスピード - さあ体感してみよう
2017年
12月
- 3D Brain
2015年
8月
- ハリウッドは英語学習法を提供してくれる
3月
- "Could"の正しい使い方
- Nature の論文は無料・・・本当に?
2014年
12月
- 自由に読める論文(オープンアクセス)と出版社の搾取
10月
- 森和俊教授ショウ賞受賞
- 森和俊教授ラスカー賞受賞
4月
- PLOS ONEのデータポリシー
3月
- 「recent」の本当の意味
1月
- ノセボ現象–インフォームドコンセントとの板挟み
2013年
12月
- Google search operatorとPubMedで英文をより良いものに
9月
- 見識の記述について
2012年
7月
- 統計学的有意性をレポートするべきか?混乱する現状
2011年
10月
- 血液検査の驚くべきグラフィックビュー
9月
- maximum/minimumとmaximal/minimalの違いとは?
5月
- “number of”を使うべき?それとも“amount of”を使うべき?
3月
- アウトライン機能を活用した論文執筆
1月
- ‘native-rashii’ライティング1 : 文末に要点を置く
2010年
9月
- 重要と言う言葉の重要性
8月
- 先入観をもたせやすい単語は避ける
6月
- 論文発表のためのヒント
5月
- 学術誌における写真の不正加工
3月
- 現行の査読プロセスで、科学分野における新知見の公表方式は正当といえるか?
1月
- パソコンのおかげで、論文を読む手間が省ける?
2009年
12月
- 略記でのピリオドの使い方
10月
- 原稿VS.査読者
8月
- 正しい “etc.” の使い方
7月
- シリアルコンマの使い方
6月
- 形容詞が連続する場合の順序
5月
- ダウンタイムのお詫び
1月
- 新薬開発の最前線
2008年
12月
- 論文のインフレ
9月
- 否定的な内容を表現する文法
8月
- 「Electronic」 と 「Electric」の違い
- another と the other の使い分け
7月
- オープンアクセスについて:1
- almost all、most、most ofの違い
6月
- 第6回 International Congress on Peer Review and Biomedical Publication
4月
- リジェクトのレター
- 永久に有効なリンク
3月
- 「Google査読」の時代は来るか?
2月
- 「査読ブログ」の時代は来るか?
2007年
11月
- 生命の写真
- 誤りがちな「more than」の使い方
9月
- 略語に付ける冠詞
- アドバイス:投稿はポジティブな姿勢で
8月
- オープンアクセスについて:2
7月
- 科学出版で起きた問題
- 論文における過去形の使用法
- 「contain」と「include」の使い分け
- 簡潔に書く方法
6月
- 査読の質の課題
- 「can」と「may」の使い分け
- コロンとセミコロン
5月
- 論文掲載における性差:女性の発言権は男性と対等か?
- アクセス無料化によるバリアの消失
- 強力な論文に仕上げるために