網膜 心臓を覗ける窓

網膜底画像 (眼球の後ろ側の写真)は、従来から目の疾患の進行を検査するために用いられてきました。しかし研究が進み、心臓血管の健康状態など目の疾患以外の評価あるいは診断にも、網膜底に見える血管網が有用である可能性が示唆されています。

今年初めにNature Biomedical Engineering誌(1) に発表された研究では、グーグルとVerily Life Sciences の研究者らが、300,000人近くの患者から得られた網膜底画像及び心臓血管疾患に関する変数のデータを用い、ディープラーニング (人工知能が使う、アルゴリズムによりデータから「学習」する学習の型) を利用してコンピューターモデルのトレーニングを行いました。続いて研究者らはトレーニング後のモデルを用い、網膜底画像データのみによって、別の13,000人の患者について年齢や性別など一連の推定を行いました。

モデルにより推定されたのは13,000人の患者の年齢、性別、喫煙状況、収縮期血圧、BMIで、信頼できる結果を得る事が出来ました。これらは心臓血管系疾患リスク計算で用いられる主要な値ですが、研究者らはこれらの値が必ずしも網膜底画像そのものから推定できるものではないことに注目しました。

次に研究者らは、今後5年間に患者が重大な心臓血管系疾患を発症するリスクを予測することをモデルに教え込みました。結果に照らしてみると、モデルが網膜底画像のみを用いて行った予測の精度は70%で、様々な情報源から得られるデータを用いた標準的なリスク計算方法とほぼ同じ精度でした。また研究者らは、そのモデルが、年齢、喫煙状況、収縮時血圧などのリスクファクターの予測には血管画像を利用し、一方BMIなどその他の変数の予測には、画像から得られる一般的な情報を利用したという大変興味深い発見をしたのです。

これらは有望な発見ではありますが、研究者らは、より大きく変化に富んだデータセットにより、これからもモデルの有効性を高めていく必要性があると指摘しています。

網膜底画像は、非侵襲的に、低コストかつ短時間で撮影できます。この画像のみを用いて、世界中で大きな死因となっている心臓血管系疾患の特定や予測をすることが可能であるということは、この新たな研究分野の前途の有望性を示唆しています。同様のディープラーニング法は、がん診断(2)等医療現場で応用される機会がますます増加しており、診断法や個別化医療の未来へ大きく期待されています。


参考文献
(1)Poplin et al. Predicting Cardiovascular Risk Factors from Retinal Fundus Photographs using Deep Learning.
(ディープラーニングを用いた網膜底画像からの心臓血管リスクファクター予想)
Nature Biomedical Engineering. 2(3), 158 (2018).
(https://www.nature.com/articles/s41551-018-0195-0.epdf?author_access_token=YWBi0EzCgfAVb_S540xl-tRgN0jAjWel9jnR3ZoTv0OMsbBDq-7d5VZef-dAA8S4kHGY_hXONc93gwXXjuO908b_ruUDVkgB5jW3RnvvRdLFLmvpTsPku5cXZoTEtr09fPvTK40ZbWzpoOGfLab-NA%3D%3D)

(2)Esteva et al. Dermatologist-level classification of skin cancer with deep neural networks.
(ディープニューラルネットワークを用いた皮膚がんの皮膚科学レベルの分類)
Nature. 42, 115–118 (2017)
(https://www.nature.com/articles/nature21056#figures